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東京地方裁判所 平成7年(特わ)935号 判決

裁判所書記官

鈴木友慈

本店所在地

東京都足立区入谷九丁目一六番一九号

都運輸有限会社

(右代表者代表取締役 齋藤敏明)

本店所在地

東京都北区赤羽南一丁目六番五号

株式会社南企画

(右代表者代表取締役 齋藤美代子)

本籍

千葉県松戸市松戸一一九二番地

住居

東京都北区十条仲原三丁目一一番八号

会社役員

齋藤敏明

大正一三年六月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官長島裕弁護人大室征男各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人都運輸有限会社及び被告人株式会社南企画をそれぞれ罰金二五〇〇万円に、被告人齋藤敏明を懲役一年に処する。

被告人齋藤敏明に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人都運輸有限会社(以下「被告会社都運輸」という。)は、東京都足立区入谷九丁目一六番一九号に本店を置き、普通貨物自動車運送業等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人株式会社南企画(以下「被告会社南企画」という。)は、同都北区赤羽南一丁目六番五号に本店を置き、飲食店及び遊技場の経営等を目的とする資本金七〇〇万円の株式会社であり、被告人齋藤敏明(以下「被告人齋藤」という。)は、被告会社都運輸については、代表取締役として、被告会社南企画については、その実質的な経営者として、両被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人齋藤は、

第一  被告会社都運輸の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の給料手当を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

一  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社都運輸の実際所得金額が三三八三万九五六二円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年五月二八日、東京都足立区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四〇二万四四四六円で、これに対する法人税額が七二万九二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第八一三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一二二一万七八〇〇円(別紙2の(1)のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一一四八万八六〇〇円を免れ

二  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社都運輸の実際所得金額が一億三三八一万六三三二円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年五月一六日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五六五万四六六五円で、これに対する法人税額が一〇九万二九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第八一三号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四八九三万七〇〇円(別紙2の(2)のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四七八三万七八〇〇円を免れ

三  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社都運輸の実際所得金額が一億二四〇九万八四八二円(別紙1の3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年六月一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五六五万二五三三円で、これに対する法人税額が八一万四八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第八一三号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四五〇〇万九〇〇〇円(別紙2の(3)のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四四一九万四二〇〇円を免れ

第二  被告会社南企画の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

一  平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの事業年度における被告会社南企画の実際所得金額が一億八六一六万八九七三円(別紙3の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である平成二年一一月二八日、東京都北区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六九九万四二九一円で、これに対する法人税額が四九三万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第八一三号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七六一一万九七〇〇円(別紙4の(1)のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額七一一八万三六〇〇円を免れ

二  平成二年九月一日から平成三年八月三一日までの事業年度における被告会社南企画の実際所得金額が七一一六万八四三八円(別紙3の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である平成三年一一月三〇日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が二四五八万六六八円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第八一三号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二五七四万四七〇〇円(別紙4の(2)のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

全事実について

一  被告人齋藤の当公判廷における供述

一  被告会社南企画代表者齋藤美代子の当公判廷における供述

一  被告人齋藤の検察官に対する平成六年九月一七日付け、同七年三月三日付け、同月七日付け、同月一六日付け(本文九丁綴のもの)各供述調書

一  大橋文子の検察官に対する供述調書

一  井上達二郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

第一の各事実について

一  被告人齋藤の検察官に対する平成七年三月一六日付供述調書(本文四六丁綴のもの)

一  渡邉三良の検察官に対する平成七年三月一六日付供述調書(本文一九丁綴のもの)

一  小高和江の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官亀谷正己作成の傭車費調査書、労務費調査書、修繕費(運送原価)調査書、給与手当調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、バックリベート調査書、雑損失調査書、損金不算入道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書、領置てん末書

一  東京法務局登記官作成の被告会社都運輸の登記簿謄本

第一の二、同三の事実について

一  大蔵事務官亀谷正己作成の割引債券償還益調査書

第一の一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第八一三号の1)

第一の二の事実について

一  大蔵事務官亀谷正己作成の運送収入調査書、支払利息調査書、公租公課調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

第一の三の事実について

一  大蔵事務官亀谷正己作成の交際接待費調査書、交際費等の損金不算入額調査書

一  検察事務官鎌田新一作成の捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

第二の各事実について

一  被告人齋藤の検察官に対する平成七年三月一五日付供述調書

一  渡邉三良の検察官に対する平成七年三月一六日付供述調書(本文一八丁綴のもの)

一  齋藤美代子の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官石橋史祥作成の遊技場売上調査書、給与手当調査書、派遣員給与調査書、割引債券償還益調査書、雑損失調査書

一  大蔵事務官依田治朗作成の領置てん末書

一  東京法務局登記官作成の被告会社南企画の登記簿謄本一通及び閉鎖登記簿謄本二通

一  押収してある申告期限の延長の特例の申請書一袋(前同押号の6)

第二の一の事実について

一  大蔵事務官石橋史祥作成の繰越欠損金過大控除額調査書、課税留保税額調査書

一  検察事務官菊池淳一作成の捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の4)

第二の二の事実について

一  渡邉三良の検察官に対する平成七年三月一四日付け供述調書

一  大蔵事務官石橋史祥作成の雑収入(リベート)調査書、交際費等調査書、交際費損金不算入額調査書、申告欠損金調査書、事業税認定損調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の5)

(適用法令)

罰条

〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕

被告会社都運輸につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(ただし、判示第一の一の事実の罰金刑の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)

被告会社南企画につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(ただし、判示第二の一の事実の罰金刑の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)

被告人齋藤につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項(ただし、判示第一、第二の各一の事実の罰金刑の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)

刑種の選択

被告人齋藤につき いずれも懲役刑選択

併合罪の処理

両被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人齋藤につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

被告人齋藤につき 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、普通貨物自動車運送業等を業とする被告会社都運輸の社長であるとともにパチンコ遊技場や飲食店の経営等を業とする被告会社南企画の実質的経営者であった被告人齋藤が、好況時に得た右両被告会社の利益を将来の事業資金や自らの孫のための身体障害者用施設建設資金蓄財等の目的で、一部売上高を除外し、架空の傭車費や給与手当を計上するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ、右両社合計二億四四万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は、通算約九六・三パーセントに達している。

右の脱税額が巨額でありかつ、ほ脱率の高いこと、さらに所得を秘匿するため、ことさら借入れを起こしたり、帳簿操作等をしている犯行の計画性や積極性などを勘案すると、その犯情は、悪質と言うべく右各業界における同種犯罪予防の観点からも被告人齋藤らの刑責は厳しく咎められるべきものである。

ただ、被告人齋藤は、道路交通法違反での罰金前科以外に他に前科前歴がない市民で、一六才から働き自力で戦後、トラック運転手から同族会社数社を興し経営するまでになった実業家であって、篤志家として各種の寄付をしたことがあり、とりわけ本件を契機として私立大学医学部を家庭の経済事情から中退しなければならない苦境に陥っていた女子学生に対し、卒業までの学費の援助を申し出て、既に三七六万円余を援助する等の善行を積み、贖罪の意を示している。その他被告会社南企画も、阪神大震災の被害者らに対し約五一万を寄付して同様の意を示している。

また、被告会社南企画の代表取締役で被告人齋藤の妻美代子も真摯な反省の態度を示して被告人齋藤の今後の監督を約束しているほか、同人ともども、身体障害者のための福祉施設を設置する計画を推進しつつ、今後の納税に遺漏ないことを期して、パチンコ店を手放し、税理士を変え、新役員を迎えるなどして再犯しない旨を固く誓っている。

さらに、被告会社都運輸は本件三事業年度分の、被告会社南企画は、本件二事業年度分の法人税及び地方税を、過少申告加算税、延滞税及び重加算税等を含めてそれぞれ完納している。

当裁判所は、以上のほか被告人齋藤らの改悛の情が顕著であり、今後社会における自力更生が期待できると思慮されることなど一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 両被告会社・罰金三〇〇〇万円、被告人齋藤・懲役一年六月)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1の1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

都運輸有限会社

(1) 自 平成元年4月1日

至 平成2年3月31日

〈省略〉

(2) 自 平成2年4月1日

至 平成3年3月31日

〈省略〉

(3) 自 平成3年4月1日

至 平成4年3月31日

〈省略〉

別紙3の1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3の2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

株式会社南企画

(1) 自 平成元年9月1日

至 平成2年8月31日

〈省略〉

(1) 自 平成2年9月1日

至 平成3年8月31日

〈省略〉

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